東京両国、国技館の近くにオフィスと研修室を構える弊社は、大相撲の場所毎の賑わいに季節を感じ、力士の方々の往来も馴染みの風景です。愛着ある地元にちなみ、人材育成に関するトピックスを「ウチダ部屋」からの発信という趣向でお届けします!
2年目社員が突然「辞めたい」と言い出した!
そんなとき直属の上司はどうするか(2023年7月発行)
今回のお悩み事
新年度が始まり3か月。そんな時に2年目の若手社員から相談を受けた。「実は辞めたいと思っているのですが…」とのこと。よくよく話を聞くと、昨年入社してから、自分なりには色々考えて動いてきたつもりではいるが、あまり成果も出ない、今の仕事は向いていないのではないか、という気持ちもある一方で、「いつまでも先輩の支援しかできないし、このまま自分の力が身に着くかどうか不安で…」という本音も。「もう少し頑張ってみよう」と鼓舞はしたものの、このままでは本当に辞めてしまいそう…直属の上司としてどのようにフォローしたらよいか悩んでいます。
今回の決まり手!
夏も近づき、新入社員研修もひと段落。そろそろ現場配属も始まる頃ですね。一方で2年目社員の方は、生き生きと仕事に向かう姿が見れたかと思うと、内面に何らかの不安や問題を抱え始めたり、と、非常に不安定な時期に差し掛かります。
相談者の部下の方のように「なんだか仕事ができている気がしない…」という気持ちを抱えると同時に、今までは上司や先輩方が目を配ってくれて、手取り足取り教えてくれていたのが、「もう新入社員じゃないんだから」と、急に距離感を取り始めるようになるのもこのころです。加えて、新入社員が入ってきて、後輩が出来て嬉しい反面、ちょっとプレッシャーを感じることも…、当事者の気持ちになってみると、なんだか何もかも不安になり、逃げだしたくなるような、そんな気持ちになります。
今回の相談は、「現状に対してなにかを感じている」というアラートを出してくれたことが上司からするとせめてもの救い、かもしれません。2年目になる今こそ、しっかり目をかけ育成をしていくことが今後の成長を促します。今の状態を少し前向きに捉え、今までのフォローやマネジメントの方法を少し転換してみてはいかがでしょうか。
そこで、今回の決まり手3つです。
■決まり手1 1年間の振り返りで「できたこと」を確認する
■決まり手2 「伴走」だけではなく「リレー方式」で一緒に仕事をする(スキル向上)
■決まり手3 仕事の手順は最初ではなく最後からなぞってみる(モチベーション向上)
■決まり手1 1年間の振り返りで「できたこと」を確認する
こちらの決まり手は王道ですが、ここが出発点です。弊社では1年目の終わりに「新人フォロー研修」を実施しています。それには大事な目的があります。「現状の棚卸し」です。ここでの「棚卸し」や「ふりかえり」が1年間、必死に活動してきた経験を自信にかえ、今後の成果に繋げていく大きなきっかけになります。
日々、仕事に必死で取り組んでいると、こういった時間をとる余裕はなかなかありません。上司の方からすると日頃の業務を見ていたら「できる・できない」の判断はつくと思うかもしれませんが、自分を客観視して、自覚させるにはそれ相応の時間と取り組みが必要なものです。仮に、1年間の活動で得た経験やそれに見合った自信が得られていないとすると、それは大きな損失です。
1年間の経験から得たことはゼロではない、ということを実感することで、1つ1つを積み上げていくスタートが切れるとともに、部下と上司の双方が、「できる」を互いに認識することで「未来を描く」ことができる大事な機会になります。
■決まり手2 「伴走」ではなく「リレー方式」で一緒に仕事をする(スキル)
部下の「能力」と「意識」に着目してみます。
「能力」は1年経って積み上げているものがありますが、まだまだこれから。もう一つの「意識=モチベーション」はというと…人それぞれ異なります。とは言いながらも、時期的には相談者の部下の方のように「下がっている」と言えるかもしれません。その点については決まり手3で述べるとして、まずは能力面の向上をどう行い、本人にどのように実感してもらうか、を考えてみます。
新入社員の間は、上司や先輩方から手取り足取り指導してもらい、時には「伴走」してもらう感じで業務を行うことがほとんどかと思います。ただ、その状況が続くと、自分の力だけで仕事をやり遂げた経験をなかなか得られず、「能力が上がった」「スキルが身についた」と実感することが難しいかもしれません。そのような場合は、一度、「伴走」から「リレー」への切り替えを検討してみましょう。
大事なポイントは、部下に任せた仕事は、一定の業務や期間はまずは一人で取り組ませること。上司の大事な役目は、明確な区切りやゴールを設定し、そこまでは責任をもってやらせることを徹底することです。「ここまでできた」「そうしたらこの次、もしできないようなら一緒にやってみよう」といった具合に、そこまでは部下一人でやりきる、粘り強く果たしていく、そういったサイクルを演出し、少しずつ仕事の幅や量を広げていくことができるのではと考えています。
もちろん定期的なミーティングで状況や本人の力量を確認し、適宜調整していくことはマネジメントとして必要です。その際に本人の力で成し遂げたことは大いにねぎらい、その実感を積み重ねていくことで「能力が上がった」「スキルが身に付いた」という自信に変えてもらいましょう。
■決まり手3 仕事の手順は最初ではなく最後からなぞってみる(モチベーション)
次は「意識」に着目しますが、ここでいう「意識」とはモチベーションです。モチベーションが高い状態を維持できれば、「できる」を実感することが糧となって、自ら動くことに拍車がかかります。しかし、モチベーションが低いままでは、どんなに「できる」を積み上げたとしても、自分自身で考えたり、一歩先を見据えて行動を起こす、といった「前のめりさ」を期待することは難しいかもしれません。
モチベーションが高まらない原因の一つに、自分が行っている仕事の価値や、成果への繋がりがイメージできない、つまり仕事の全体像がわからない、ということがあるかもしれません。
上司や先輩方が仕事の指導を行う際に、よくあるパターンとしては、営業職だとしたら営業プロセスの最初から行うこと、つまりお客様の開拓からアポイントの取得、提案、商談成立、納品や実施といったプロセスを最初からなぞっていく形です。
しかしその場合、最初の開拓やアポイントの取得でつまずいてしまうと、その先の工程をいつまで経っても経験することが出来ません。プロセス通り、一つ一つ乗り越える経験をさせることも重要ですが、時には、営業プロセスの一番最後の工程から遡って経験させてみることも検討してみてください。
効果としては、日々の業務のゴール地点から遡っていくことで、自分の仕事のゴールが明確となり、それぞれの仕事や業務の意味を見出すことがより容易になります。また、ゴールに至るまでに、どのような工夫が必要かを考えられるようになる可能性もあります。
営業プロセスで考えると、納品時にお客様が「よい提案をしてくれてありがとう」と言ってくれたとしたら、「お客様に”ありがとう”と言ってもらえるためにはどんな提案をしたらいいのだろう」とか「この提案をするためには、お客様とどんな関係性を気づき、どんな情報収集をしたらいいのだろう」など、営業の各プロセスのゴールをより明確に意識した活動が出来るようになります。
営業プロセスを前から辿ってく経験ばかりでは、ゴールを見通せず、常に次の新しいステップになるので、自分で考えが及ばず、上司・先輩の指示・アドバイス通りに物事を進めるしか、経験値が少ない彼らにとってはできないかもしれません。
一つひとつの仕事には繋がりがある、それを体感させ、自ら考えやすい境遇を作り上げることで当事者意識を生み出し、それを積み重ねていくことでモチベーションの向上と維持に繋がる。そういったサイクルを生み出すことが期待できます。
若手研修などで接していても、入社2~3年目は焦りや不安、手ごたえの無さを感じ、周りからの期待の高まりとは裏腹に、様々な葛藤を抱えている方も多くいます。
本人の気持ちだけではどうしてもマイナスな考えや心境になりやすいですが、上司や先輩方が「今できること」にきちんと目を向けさせ、1年間で培った経験を次に活かす試みをサポートする姿勢を見せることがまだまだ必要です。2年目の若手社員にこそ、周りが真摯に向き合い、適切なOJTを行うことによって、大きな成長に繋がっていくと信じています。
若手の育成に悩んだら、今回の決まり手も参考にしていただければ幸いです。どすこい!